認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「そろばん学習が児童のイメージ生成と操作に与える影響」

ABACUS TRAINING EFFECTS ON IMAGERY GENERATION AND OPERATION IN CHILDREN

Takeshi HATTA and TakehikoHIROSE

Psychologia 34, 1991


イントロダクション

第一の目的として、そろばん学習期間が少ない子どもたちでも成人のそろばん熟達者で観察された転移効果(Hatta & Miyazaki, 1989)が認められるのかを確認する。 第二の目的として、どのイメージ処理段階(イメージ生成とイメージ運用処理)がそろばん学習の影響を最も受けるのかを確認する。

実験方法

参加者
実験1 そろばん学習群(46名)を上級群(1,2級)15名、中級群(3−5級)16名、初級群(6級以下)15名に分ける
実験2 そろばん学習者(42名)を上級群(1,2級)、中級群(3−5級)、初級群(6級以下)に分ける(分析対象の人数は書かれているが参加者数は書かれていない)
初級群を統制群とみなす。

材料と手順    

刺激:

  • 実験1 アラビア数字と漢数字
  • 実験2 ひらがなとカタカナ

条件:以下は実験1、実験2はひらがなとカタカナ
  • 基本条件:アラビア数字とアラビア数字
  • 生成条件:アラビア数字と漢数字
  • 回転条件:アラビア数字と90度回転アラビア数字
  • 生成回転条件:アラビア数字と90度回転漢数字

実験結果と考察

上級群は実験1のアラビア数字の心内回転反応において成績がよかった。上級群は心内回転イメージの処理時間が短いといえる。これは多くのそろばん学習期間を経ることで、そろばん学習の効果が心内イメージ処理に正に転移すると考えられるかもしれない。これに対し、実験2の非数字刺激では群間差はなかった。結果として、上級群のアラビア数字への回転処理のみで正の学習効果が表れたと言え、そろばん学習の効果は領域固有なものに限定されるといえる。そして、そろばん学習の影響を強く受けるのは、生成段階よりもむしろイメージの運用処理段階であると考えられる。Hatta & Miyazaki(1989)では、非数字課題である言語・絵マッチング課題でも効果が見られていることから、本実験は対象が子どもだったことが影響しているかもしれない。中級群と初級群の差が見られなかったことから、素早いイメージ処理能力を得られるのは1級レベルが必要と考えられる。小学校正規過程でのそろばん導入に際し、1級レベル獲得のために時間を取ることはできないため、イメージ処理能力生成を目的とした小学校でのそろばん学習時間の増加は意味がないかもしれない。


感想

第一の目的として、「成人のそろばん熟達者で観察された転移効果(Hatta & Miyazaki, 1989)が認められるのか子ども対象に確認する」としながらも、課題が異なるのが違和感がある。初級群を統制群とみなすとしているが6級取得者もおり平均学習期間として1年以上(18か月)である。イメージ生成とイメージ運用処理を分けているが、イメージ生成が何を意味しているのかよくわからない。