認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「シーラーズにおける9-12歳の小学生の認知容量を高めるUCMASの影響」

The Impact of UCMAS Training Program on Potentiating Cognitive Capacity among 9-12 Year-Old Primary Schoolers in Shiraz

Ali-Mohammad Kamali, Fatemeh Shamsi, Zahra Zeraatpisheh, Mohammad Mojtaba Kamelmanesh, Mohammad Nami

arXiv


イントロダクション

The Universal Concept of Mental Arithmetic System(暗算システムの普遍的概念)の頭文字を取ったUCMASとは、古くから存在する暗算法の新しい表現でり、珠算式暗算が中東やアジアではUCMASとして知られている。 この研究ではUCMASで、そろばんを学習した学習歴3年以上の生徒と6か月以下の生徒の二群を比較した。課題はケンブリッジ脳科学コンピュータプラットホーム(CBS-CP)から選ばれ、そろばん学習による認知機能向上を検討した。

実験方法

参加者
学習歴3年群15名、6か月群15名。合計30名(9歳〜12歳)

材料と手順
ケンブリッジ脳科学コンピュータプラットホーム(CBS-CP)より以下の課題を実施した。

      
  1. 空間スパン課題
  2. モンキーラダー課題
  3. ディジットスパン課題
  4. 仲間外れ探し課題
  5. ペア関連課題
  6. 特徴一致課題
  7. 空間計画課題
  8. メンタルローテーション課題
  9. 仲間外れ探し課題
  10. 多角形課題
単極性準光トポグラフィー(HEG)を使用して課題中の前頭前野の脳血流量も測定した。

実験結果と考察

CBS-CPの課題の内、ワーキングメモリと関連する空間スパン課題、モンキーラダー課題、ディジットスパン課題の三つに課題で群間に有意な差が見られた。空間スパン課題とモンキーラダー課題は視空間ワーキングメモリと関係がある課題である。特に、空間スパン課題は特に視空間の、ディジットスパン課題は言語性の短期記憶に関わりが深い。このことから、珠算式暗算トレーニングは学習者の海馬-前頭前野回路を含む視空間ワーキングメモリにフォーカスすることで暗算能力を高めているかもしれないと結論付けている。
また、HEGによる脳内の酸素濃度は学習歴3年群の方が有意に高いことが示されている。


感想

UCMASとは中東、アジアを中心に展開するそろばん教室の名前であるが Universal Concept of Mental Arithmetic System(暗算システムの普遍的概念)といった概念なのか、そろばん教室の指導法のブランド何か曖昧に感じる。

結果は珠算式暗算に近い課題で向上しているところが興味深い。珠算式暗算は空間上にそろばんが示す形をイメージするため、空間上に配置された四角形に色が変わっていく視空間スパン課題は共通した珠算式暗算と共通した方略(認知ルーティーン)が使用できると考えられる。
論文中に説明されている課題は10種類にも関わらず、図1で11種類の課題の結果が示されているのが不思議である。