認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「そろばん式暗算アプリ“そろタッチ”が認知機能に与える影響:無作為比較試験」

Effects of the abacus-based mental calculation training application “SoroTouch” on cognitive functions: A randomized controlled trial

Tetsuya Takaoka, Keiji Hashimoto, Sayaka Aoki, Eisuke Inoue, Nobuyuki Kawate

PLOS ONE, 2024


イントロダクション

日本社会の高齢化率は世界でも突出しており、中高年の認知機能の維持、向上は重要な課題となっている。そして、さまざまなコンピュータベース認知機能トレーニングの研究が進んでいる。 本研究ではそろばんトレーニングを一つの候補として取り上げた。そろばん式暗算学習アプリである「そろタッチ」の学習が中高年の認知機能に与える影響を検証した。

実験方法

参加者
そろタッチ群10名、統制群10名(無作為に選ばれる)
期間
2021年11月から2022年5月の6か月間

材料と手順

そろタッチ群に割り振られた参加者は毎日30分、6か月間そろタッチを利用しトレーニングを行う。統制群には認知トレーニングは何も行わない。

CogEvoを利用して以下の六種類の認知機能を測定する

  1. ジャストフィット : メンタルローテーション課題であり視空間能力を測定
  2. 見当識 : 時間的認知機能を測定
  3. フラッシュライト : 視空間スパン課題であり、視空間ワーキングメモリを測定
  4. ルート99 : 計画力とワーキングメモリを測定
  5. 視覚探索 : トレイルメイキングテスト課題であり注意、空間探索、処理速度を測定

MoCA-jにて対面式認知スクリーニング検査を行う

実験結果と考察

6か月後のCogEvoによる認知能力測定で全体得点の向上は見られなかった。そろタッチ群で向上が見られたのは2か月目の視覚探索課題、6か月目のルート99であった。これはワーキングメモリ機能の向上とも数に関する課題の成績向上とも考えられる。逆にメンタルローテーション課題であるジャストフィットでは、そろタッチ群の向上は見られず、統制群にのみ向上が見られた。そろばん式暗算は心内イメージを操作するため意外な結果であった。


感想

日本国内でのそろばん研究が出版されたことは非常に喜ばしい。
感想としては統制群が何も行わない(パッシブコントロール)にも関わらず、6か月後に全体成績で効果が表れておらず残念な結果と言える。途中経過でもそろタッチ群の成績が良いものと統制群の成績が良いものが同数で、部分的に見ても効果が表れたとは言えない。参加者間計画にもかかわらず各群10名というサンプルサイズであり、そろタッチ群には毎日の練習をしていない参加者がおり、更なる研究が必要だと感じる。