認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜
「そろばん熟達は児童の数認知処理を高める効果がある」
Numerical processing efficiency improved in experienced mental abacus children
Yunqi Wang, Fengji Geng, Yuzheng Hu, Fenglei Du, Feiyan Chen
Cognition 127 (2013) 149ー158
中国・浙江大学のChen.Fによるグループはそろばん学習による認知機能の促進に関する論文をたくさん発表している。この研究は数ストループ課題を使ったもので、非常に重要な研究だと考える。 数ストループ課題とは、2 7 のように、文字の大きさと数値が異なる二つの数が並んで呈示される。、数の大きい方を答えるように指示された時は2を、文字の大きさが大きい方を答えるように指示された場合は7を答える課題である。 その時の指示に無関連な情報を無視し、要求された情報への注意が求められる。
イントロダクション
数の大きさに関する情報は、脳内で自動的に活性化するとされており、そろばん熟達児童の数処理能力が高いとすれば、 数ストループ課題において以下のような予測がたてられるとしている。
- 数の大きさを判断する課題では、そろばん熟達児童の方が、無関連情報である文字の大きさを無視する力が強い。
- 文字の大きさを判断する課題では、そろばん熟達児童は、高い割合で数の情報を自動的に活性化させてしまうため、無関連情報である数の大きさの影響を受けうけやすい。
- 文字の大きさに対し、数の大きさの情報の顕著性は、そろばん熟達児童の方が大きい。
- そろばんの初心者とそろばん未経験児童はは、上記の3つの測定値にほとんど違いがない。
実験方法
参加者
2年生と4年生の児童110名を以下の4つのグループに分ける。
- そろばん熟達グループ:4年生、週3,4回3年以上のそろばん練習
- そろばん未経験グループ:4年生
- そろばん初心者グループ:2年生、週3回1年程度そろばん練習
- そろばん未経験グループ:2年生
数ストループ課題をおこない、そろばん熟達グループ、そろばん初心者グループ、そろばん未経験グループの成績の比較を行う。
実験結果と考察
結果は4つの仮説通りとなった。そろばん熟達グループの児童は、文字の大きさからの影響はあまり受けないが、数の大きさの影響は強く受けることが示された。
しかし、そろばん初心者グループの成績は、そろばん未経験と同じであった。
このことから、そろばん式暗算学習が児童の効率的な数処理能力を向上させることが示された。
そろばん式暗算が効率的な数処理能力を生む理由として、以下の4つが考えられるという。
- 左から右へ進む計算システムと位取り
- 心内そろばんイメージ(MA:メンタルアバカス)とアラビア数字、2種類の数の獲得
- 繰り返しの練習
- たくさんの練習
感想
この研究結果は、そろばんを習っていた立場からも、指導する立場からも、非常に納得できるものである。考察であげられた4つのポイントはそろばん学習の特徴を指摘している。
そろばんで行っていることは、端的に言うと、アラビア数字を見る、九九を唱える、そろばん珠を上げ下げする。これだけである。
通常、これを繰り返すには、忍耐力が必要てある。しかし、多くの子どもたちはそろばん学習に夢中に取り組む。
そこには、集中を楽しみ無心になれる部分や検定制度による上達の喜びなどがあり、それは、日本珠算界が歴史的に積み上げてきた宝なのだと思う。