認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「そろばん学習者の記憶評価」

EVALUATION OF MEMORY IN ABACUS LEARNERS

MYTHILI BHASKARAN, ANU SENGOTTAIYAN,SANGEETHA MADHU AND VASANTHI RANGANATHAN

Indian J Physiol Pharmacol, 2006


イントロダクション

そろばん学習は、見て、音を聞き、指を動かすため、視覚、聴覚、入力感覚を統合させる必要がある。このことから、左右脳半球を統合させて問題を解くため、そろばん学習は脳全体の機能を発達させるとされている。そのため、本研究ではそろばん学習者の短期記憶の測定を行う。

実験方法

参加者
そろばん学習群50名(Gelそろばん教室)、統制群50名。合計100名(5歳〜12歳)
この参加者が四群に分けられる。

  • グループT:学習1年統制群(50名)
  • グループU:学習1年そろばん群(50名)
  • グループT:学習2年統制群(20名・グループTの中から継続した参加者)
  • グループU:学習2年そろばん群(20名・グループUの中から継続した参加者)
期間
2002年から2004年に実施

材料と手順
そろばん群参加者は週に2回(土曜日と日曜日)に1時間練習を行う。レベルTとUは足し算、引き算、レベルV、Wはかけ算わり算、レベルX、Yは小数を含んだ加減算が含まれる。それぞれのレベルで暗算も実施する。
課題は以下の六種類からなる
  1. ディジットスパン順唱課題
  2. ディジットスパン逆唱課題
  3. 文章繰り返し課題
  4. 物語課題
  5. 画像記憶課題
  6. ベントン視覚保持課題

実験結果と考察

すべての課題でそろばん群が統制群より有意に成績が高かった。そして、そろばん群は学習前後でもすべての課題で向上したことが示された。数に関する課題以外でも向上が見られたことは表記に値する。
この研究で、二年間のそろばん学習で視覚、聴覚両方でそろばん非学習群より優れた記憶を持っていることが結論付けられた。そのため、算数学習のみならず、他の教科も向上したことが質問紙調査から知れたため、そろばん学習をお薦めする。


感想

インド南部タミルナドゥ州のチェンナイで2006年に参加者100名の研究がなされていたことが興味深い。このタイプの研究では統制群がどのような学習をしていたかが問題となるが、学校で学習プログラムを実施したとしか書かれていない。また、脱落者を除くと記入されているが、能力が高い参加者が脱落せず残った結果、より良い成績が出た可能性が残っている。

また、論文中に説明されている課題は10種類にも関わらず、図1で11種類の課題の結果が示されているのが不思議である。