認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「中国の珠算式暗算に上達している幼稚園児は空間処理と注意に優れている」

Chinese kindergarteners skilled in mental abacus have advantages in spatial processing and attention

Dazhi Cheng, Mei Ma, Yuwei Hu, Xinlin Zhou

Cognitive Development (2021)


イントロダクション

これまでの研究ほぼすべてでそろばん学習の計算技能への効果が示されている。しかし、そろばん学習の認知処理機能への転移の有無は、研究ごと結果が一貫しておらず結論が出ていない。 その原因として考えられるのは、参加者が小学生から中学生にかけての年齢であり、そろばん学習以外にも一般的な学校での授業を受けているからかもしれない。 そこで、今回の研究では珠算式暗算を学び、上達した幼稚園児を対象にし、認知能力を測定する。

実験方法

参加者
中国人幼稚園児442名(平均年齢5.5〜6.4)半数がそろばん学習ありで中国の暗算検定7級レベル、半分はそろばん学習経験なし

材料と手順
以下の6種類の算数テストを行う。(最後の課題は言語処理能力課題)

  1. ひき算課題:計算流暢性
  2. 二次元メンタルローテーション課題:視空間処理
  3. 幾何学形探索課題:視覚注意
  4. 概数比較課題:非言語数量処理
  5. 非言語マトリックス推論:一般IQテスト
  6. 選択反応課題:反応時間

実験結果と考察

ひき算課題、二次元メンタルローテーション課題、幾何学形探索課題でそろばん学習群の成績が統制群よりも明らかに高かった。 今回の研究で、珠算式暗算に上達した幼稚園児は計算能力、視空間能力、視覚的注意に関して有意性をもっていることが示された。


感想

まず、珠算式暗算の7級レベル(中国の検定)の幼稚園児を11の都市(恵州市、淮北市、深?市、天津市、成都市、福州市、太原市、重慶市、邯鄲氏、泉州市、延辺自治区)221人集めるという規模の研究を実施していること が非常に興味深い。また、珠算式暗算学習の視空間処理能力への転移がないと主張するBarnerらの研究(2016,2017)への反論が示されており、Barnerらの研究は、そろばん・珠算式暗算への学習期間が短いこと、そして、どの程度のレベルまで学習者が到達したかが不明なことを挙げている。この研究もそうだが北京師範大学が行っているそろばん研究は、研究の限界点が明確に記されている。この研究では参加者が無作為抽出ではないこと、実験前後の比較がされていないことが挙げられている。
そろばん式暗算練習の事を退屈で時間のかかる練習で、それを早く終わらせるために集中すると書かれており、面白い。退屈な練習なら、継続できないはずなので、退屈にならない何かがあるように思われる。