認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜
「健康な参加者と認知機能に障害を持つ参加者におけるそろばん計算を使用した新しい認知刺激の方法に関する予備調査研究」
A pilot study of a new method of cognitive stimulation using abacus arithmetic in healthy and cognitively impaired elderly subjects
J.A. Matias-Guiua, D.A. Perez-Martinez, J. Mat?as-Guiu (e,iは上にアクセント記号が必要なものあり)
NEUROLOGIA、2016(iは上にアクセント記号が必要なものあり)
イントロダクション
認知症患者に対する非薬物的介入として認知機能を刺激する治療に必要性が叫ばれており、認知的保存仮説(cognitive reserve hypothesis)多くの認知活動が認知的衰えを遅らせると考えられる。 その一つとしてそろばん学習が近年注目を浴びている。そろばん学習の認知機能への影響は研究がなされているが、高齢者の者が少ないため、本研究では高齢者を対象にした研究を行う。
実験方法
参加者
スペイン・マドリード州の二つの都市で、病院にかかっている65歳以上の20名が対象。平均年齢73.6 (± 5.6)歳。12名が女性、8名が男性。
参加者は以下の三群にわけられた。
- 認知機能に問題がないと認められ健康な患者(6名)
- 軽度の健忘性認知障害をもつ患者(6名)
- 初期段階のアルツハイマー型認知症と診断された患者(8名)
材料と手順
介入
ALOHA珠算式暗算法によるBrainFactory +50
メソッドを利用した介入を実施。ALOHA方式とは日本式そろばんを利用した、そろばん計算、暗算、教育ゲームからなる教育プログラムである。
学習期間
一回150分のセッションを週2回、5週間に渡り合計10回行った。セッションの内容は以下の通り。
- そろばんを使った計算(約60分)
- 暗算練習(10分)
- そろばんでない認知課題の実施(45分)
- リラクゼーション、もしくは、エクササイズ(35分)
- 質問紙調査:満足度、利用しやすさ
- ミニメンタルステート検査(MMSE):認知症の診断を評価するための検査
- トレイルメイキング検査(TMT)Aタイプ:数字を順につなぐ課題で視覚性注意と運動遂行能力を評価
- トレイルメイキング検査(TMT)Bタイプ:数字とひらがなを交互につなぐ課題でで選択的注意を評価
- 簡易版老年期うつ病評価尺度(GDS)
- 介護者にザリット負担面接(ZBI)(アルツハイマー型認知症群の参加者のみ)
実験結果と考察
3群すべての参加者から、高いレベルでの満足度と利用しやすさが得られ、参加継続率もよかった。そのため、高齢者にとって利用可能な方法だと考えられる。 認知検査として実施したMMSE検査は介入により向上した。しかし、認知課題であるTMTのスコアは有意に向上しなかった。また、うつ病評価尺度 介護者の負担も有意な改善は見られなかった。予備調査であり、サンプルサイズも小さく限界点は多い。また、統制群を含んだデザインでの今後の研究が必要である。
感想
高齢者、特に軽度の認知症と診断された患者への介入実験にそろばんが利用されており興味深い。主観的な基準での指標では工場が見られたが、
客観的な指標となる認知課題成績の向上は見られなかった。この結果に対し、日本での似たデザインによる研究では向上が見られると記されている。
また、スペインの研究ではアロハ・メンタルアリスメティックというそろばん教室がかかわっており、そろばんのことをジャパニーズ・アバカスと表現している。
近年の中国の研究ではそろばんを「モダン・中国アバカス」と表記したものもあるが、スペインの研究は日本に視線が向いていることが見て取れる。