認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜


「数学,タスクスイッチングに影響を与え、その関連を媒介する中国人児童のそろばん学習」

Abacus Training Affects Math and Task Switching Abilities and Modulates Their Relationships in Chinese Children

Chunjie Wang, Fengji Geng, Yuan Yao , Jian Weng , Yuzheng Hu , Feiyan Chen

PLOS One, 2015


イントロダクション

長期のそろばん式暗算学習が及ぼす、数学能力(例えば、計算能力)と、実行機能の一つとされるスイッチング能力への影響を検討した。そろばん学習児童においてスイッチング能力と数学能力との関係が強いと仮定した。 そして、それはそろばん式暗算学習が媒介するものだと仮説を立てた。

実験方法

参加者
82人の小学生を、そろばん学習群と統制群に分けた。測定時の欠席、転校の理由で12名(そろばん群10名、統制群2名)が除外された結果、そろばん群31名、統制群39名となった。


材料と手順    

1年生開始時にRavenテストとGo/No-go課題を受けベースラインとする。そろばん群は週2時間のそろばん授業を受ける。統制群はそろばん授業は行わない。

    課題
  • Ravenテスト
  • Go/No-go課題:動物の絵が出るとGoと反応する。しかし、チンパンジーの絵のときは反応しない
  • 数学テスト
  • ドット課題:スイッチング課題であり、「点と同じ側のボタンを押す」場合、「点と反対のボタンを押す」場合、それがランダムに出る混合の場合があり、それぞれを切り替えて答える課題

数学テストは以下からなる
  • 計算能力テスト
  • 長さ見積もり課題:線の長さを見積もる
  • 絵数え課題:枠の中の絵の数を数える
  • 立方体数え上げ課題:積まれた立方体の数を見えない部分も含み答える
  • 数繋ぎ課題:ばらばらに散らばった1から20までの数を順に繋ぐ
  • 数列課題:規則を以て並んだ数列の欠けた部分の数を三つ求める

実験結果と考察

長期のそろばん学習が計算能力と視空間能力の高さに関連しており、そろばん群が統制群と比較し、タスクスイッチングと算数能力の関係がより強いことを示した。このことから、そろばん学習はメンタルイメージを構成・強化し、 視空間水量を要する数学課題の成績を高める可能性を示唆した。また、タスクスイッチング課題の結果から、異なるメンタルセットの切り替え能力に影響したとも考えられる。暗算とタスクスイッチング課題の処理はともに前頭葉を 使用することが知られており、学習による脳の可塑性が促された可能性がある。最後にそろばん群のみ、タスクスイッチング能力と数学能力の関係性が有意であった。こられのことから、そろばん式暗算学習が実行機能に関連していることが示唆される。


感想

そろばん学習効果をタスクスイッチング課題から検討することは意味があると考える。そろばん計算は、「たし算・ひき算」で逆の操作をする必要がありそれを常にスイッチングしていると言える。 これは、状況に応じたスイッチングを行うことがそろばん学習といえるだろう。このスイッチング課題学習が実行機能に与える影響があるのか、負の影響はないのかを考えることは重要な課題だと言える。
報告の中で気になる点は、参加児童の内、そろばん群のみ脱落者が四分の一(42人中10名が脱落)に上ることである。そして、分析では統制がされているが、ベースラインでの知能とスイッチ能力、数学能力の相関が有意に高い。 このことが、そろばん群の脱落者の原因になっている可能性はないだろうか? そろばん能力と個人差に関する研究が少ないため、今後、研究が必要な課題ともいえる。