認知心理学からみたそろばん 〜世界の論文を眺めると〜
「長期的そろばんトレーニングが機能的脳ネットワークのモジュラー特性に与える影響」
The impact of long-term abacus training on modular properties of functional brain network
Ye Xie, Jian Weng, Chunjie Wang, Tianyong Xu, Xiaogang Peng, Feiyan Chen
NeoroImage 183, 2018
イントロダクション
研究の目的として、グラフ理論分析を用いて、長期的そろばん式暗算トレーニングによる脳ネットワークへの可塑性への影響を、安静時のfMRIデータを使用して検討する。 これまでのそろばん式暗算による脳機能のメカニズムの解明は脳活動に関するものが多く、脳機能の接続性に関するものが少ない。いくつかの脳領域の接続に関する知識は、 領域間の相互作用に関する情報を提供する。これによりそろばん式暗算トレーニングが脳の可塑性に与える影響を明らかにする事を目指す。
実験方法
参加者
中国都市部の小学校から選ばれた162人が参加。無作為に以下の2群に割り当てられた。
- そろばん群90人(男子39人、女子51人)週2時間のそろばん学習
- 統制群72人(男子32人、女子40人)
材料と手順
- ハイデルベルグ計算テストにより数学能力を測定
- 安静時のfMRIデータに基づいてグラフ理論分析を実施
実験結果と考察
中国版ハイデルベルグ算数テストにおいてそろばん群の成績が有意に高かった。 ネットワーク全体で、大局的効率性において有意差は見られなかった。 そろばん群は視覚モジュールでより高い局所効率とモジュール内接続を示した。同時に認知機能を統制するネットワークとされるシングルオペキュラーネットワーク(CON)での局所効率とモジュール内接続は少なかった。さらにCON内の局所効率とモジュール内接続は、そろばん群の数学能力と負の相関があった。
視覚モジュールの重要性が高まっていることが本研究から示唆されており、珠算学習者は暗算において視空間ストラテジーに依存する傾向があり、関連する神経メカニズムを利用するという、これまでの研究で示されてきたことと一致する。よって、視覚関連ノードでの情報転送と処理の統合的強化への珠算式暗算の影響を示している。
感想
数学能力テストのドイツ語名を直訳すると、ハイデルベルグ計算テストとなり、そろばん式暗算トレーニングが計算能力を向上させることはこれまでも指摘されてきたことと一致する。 そして、その計算能力を向上させるために、計算速度に必要な要素以外を最小限にし、情報が貧弱化したモデルを形成することを主張したのが波多野誼余夫である。 この研究の結果は波多野が呈示したこの枠組みと一致しているといえる。 視空間ネットワークに加えて認知機能を統制するネットワークCOMに対して、算数能力との相関が負になっているところからもそれが伺える。 そろばんは器械的だという主張とも言い換えることができる。 参加者のレベルは珠算検定10級合格程度であり、加減算10問中8問を正確に5分の制限時間で解くことができるレベルである。 小学1年生であり、九九を使用したかけ算・割り算は実施していないと考えらえれるため、言語使用は少ないため、視空間に特化した結果が出たと推測される。